キミの匂いがする風は 緑 〜枝番?


  “アダムのりんご”
 


    幕 間



こんな早朝に掛けて来たのは、
まま遠慮のない間柄のキミたちだから、
特に不審はないことだったのかもしれないけれど。

 「あの歯切れの悪さが普段のペトロさんらしくなかったし、
  それに、明らかに
  キミへ何か起きたことへの心当たりがあるって
  そんな言い回しをしていたからね。」

 「…そうなんだ。」

あまりに要領を得ない、それは焦れったい話しっぷりだったので、
イエスにはまるきり気づけなかったのに、
だのにブッダには そうではなかったらしくって。
あの短いやり取りから 一体何を掴んだものか、
打って変わって表情にも態度にも落ち着きを取り戻した彼であり。
まだ今一つ状況へ追いついていないイエスなのへ、にっこり微笑むと、

 『大急ぎで向かっても1時間はかかるだろうから、
  その間に 朝ご飯にしようね。』

起き出したそのまま、つまりは布団の上で愁嘆場っていたものが、
これはいけないと、いつものモードへ切り替わり、
くしゃくしゃになっていた掛け布団をまずは手にしたブッダ様。

 『ああ、イエスは大事を取ってまだ横になっているかい?』

そうと訊かれたが、
特にどこか具合が悪いという訳でもなし。
ううんとかぶりを振ると、よいしょと立ち上がって、
彼もまた布団を片付けにかかる。
枕を拾い上げ、シーツを剥がして別に畳んで、
掛け布団と敷布団をぱたくたと畳み、
押し入れへ上げるのは重たいから私がと、
いつも以上の馬力を発揮したブッダが、
ほんの二手間で“収納終わり”と上の段へ詰め込み終えると、
卓袱台を出して来て、その傍らへ座布団を置き。
鏡と それから、
ポットから注いだお湯で絞ったタオルを洗面器つきで持って来て、
これで顔を洗ってねと至れり尽くせりをしてくれて。

 『此処で待っててね。あ、着替えるなら外に出てるけど。』
 『う〜〜〜。何か急に女の子扱いしてる。』

だって女の子でしょうがと言い返した口調も軽妙で、
これは完全に何か目処が立ってる彼であるらしく。
一応はと茨の冠を装着し、身だしなみはOKとしてから、
そのまま、正面にあたるキッチンコーナーを見やったイエス様、

 「……。////////」

自分の方が縮んだらしいが、そういう身長差が出来たからか、
堅実泰然として振る舞うところが、
イエスからは いつも以上に何て頼もしいことかと思えてならず。
てきぱきと朝ご飯の支度にかかる後ろ姿も、
いつもなら“清楚な奥さんみたいvv”って思えてたのに、

 “お料理出来る男の人って、
  草食とは限らなくて、むしろ頼もしいよね…。”

いやまあ、ブッダは草食というかベジタリアンなんだけど。
しゃんとした背中の安定感に加えて、
包丁さばきに迷いがないとか、
身ごなしや手際のよさに切れがあるとか、
そういうところへの見方がちょっと違って来ちゃってて。

 “…おかしいなぁ。///////”

どうやら自然と女子目線になってる自分らしいけど、
そうならそうで、でも立場は同じってどうなのと。
つまりは、女子になってもご飯を待ってる身なのが
何か変だと感じちゃったイエスで。

 「そうかなぁ。」

何とはなく落ち着けなくなってしまい、
ついには“何か手伝わせて”と立って行ったけど。
怪我しちゃうからダ〜メと、やんわり笑われてしまっただけ。
それは無駄のない手際で仕上げられたる、
黒胡椒を利かせた 春キャベツのさっと炒めに、
昨夜の切り干し大根とキュウリの浅漬け。
塩梅のいい出汁つきの温泉卵と
小松菜のおみそ汁というメニューを並べられてから、
あらためてそこを訊いたらば、

 「私がいつもより大きく頼もしく見えたっていうのは、
  身長差からくる錯覚だろうし。
  女性だから台所仕事しなきゃってのは、
  そもそも理屈がおかしいでしょ?」

イエスは男の子でも女の子でも私の大切な人なんだから、

 「美味しいもの食べて、幸せ〜って微笑ってくれるのがお仕事。」
 「う〜〜。//////」

何でだろ、ブッダのほうが余裕出てないかと。
それは恐らく、
くどいようだがこの状況への目処が立っていて、
安心しきっているからでもあるのだろうが、
それでも何だか、…何だかで。

 「ブッダって結構“たらし”なんだ。//////」
 「え? たら…何だって?」

こんの王子様がと、そんな余裕を微妙に恨めしく思ったけれど、
“たらし”なんてな簡単な言い回しも判らないところは、
相変わらずに生真面目で朴訥な彼でもあったので。
そこへとやっと、なぁんとなく安堵の息がこぼれたイエス様、

 「……いい、許したげる。」
 「????」

イエスの側こそ、
どこか我儘さのカラーが様変わりしたかのようだったが。
説明求むとキョトンとするブッダをよそに、
わざとらしくも“ふ〜んだ”と
そっぽを向いて見せたのも束の間のこと。

 「…あ、このキャベツ美味しいvv」

箸を進めつつ、あっさり機嫌を直したところは、
いつもと同じなトーンであり。
そんな無邪気さへと眸を細めたブッダが、
ふと…訊いたのが、

 蒸し返すんじゃないけれど、
 イエスが昔降臨したときに女性になったって、
 …今の この姿になったってこと?

ペトロの態度を言えないくらい、
どこか恐る恐るという訊き方をする彼へ、

 「ううん、違うよ。」

イエスは やはりあっけらかんと応じてくれて。

 ちょっと事情のある女の人への“見守り”だったから、
 異性では近づけなくってね。
 それに、万が一にも私だって判っちゃいけないから、
 全然違う存在へ転変した…っていうのかな。

お箸の先を咥えつつ、
う〜んとう〜んとと言葉を選び、
ほとんど“変身”みたいなもんだよと言い。

 「いつだったか、
  ブッダがほぼブッダのままで
  綺麗な女の人になってくれたの見て、
  ああ、神通力って
  そういうことまで出来るのかってびっくりしたもの。」

 「…ああ、あれねぇ。//////」

ブッダの側こそ、まるきり別の存在への変身という転変は、
いっそその別の生き物の耳目を借りるとか、
そんな形で用が足りるので想いも拠らずであったらしく。
降臨というお務め自体、
実際に赴く立場になろう天乃国の尊でもなけりゃあ
詳細までは知られていないことだから尚更に、
そこへの理解が微妙にすれ違ってたらしいと、
今やっと話も完全に通じて、心からホッとする。

 “…だってさ。////////”

小柄になったからだろか、
随分と幼さが立った印象が強いが、
そんな屈託のない あどけなさもまた格別な、

 こんなに愛らしいイエスが、
 自分の知らないところで人目に触れていたなんて許せない、と

以前にも女体化した経緯があったと聞いたおり、
まずはそんな感情が沸き起こってカッと来たのであり。

 “解脱した身とは思えない妄執だよね。”

ねえ、この温泉卵、お出汁ごとご飯に乗っけてもいいかなぁと、
無邪気に訊いてくる食いしん坊さんの笑顔に蕩けそうになりながら、

 「うん。…あ、スプーンでよそった方がいいよ、待ってて。」

動き惜しみなどするものですかと、
流しまでを飛ぶように翔ってしまわれる、
イエス様曰く、それはそれは“可愛いvv”如来様なのでありました。






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  *ちょっと空気を変えてみました。
   やっぱ、この二人は
   基本、イチャイチャしていて欲しいなぁvv
   妙にノリがいいようなので、
   このテンションが暑さに負けぬうち、
   続きも 急いで書き上げますねvv

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